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地域格差を縮める
大阪府の戦略とは?
大阪府が立ち上げた「GovTech 大阪」は、デジタル技術を活用して地域間の格差を縮め、住民の生活を向上させる目標を掲げています。この取り組みの一つとして、プレイネクストラボ株式会社の「スマート公共ラボ」の共同調達プロジェクトを展開しています。LINEを活用した自治体サービスの改善とスマートシティ戦略の推進が、住民の生活を便利にし、職員の業務を効率化しているのです。
そこで今回の記事では、GovTech 大阪の関係者に話を伺い、共同調達を含む様々なアプローチが、どのようにして成果を生み出し、大阪府民の生活向上に貢献しているかを探ります。
一定水準の住民サービスを
共同調達により提供可能
―本日は初めてこちらに訪れましたが、建物の大きさに驚きました。では、さっそくですが、「GovTech 大阪」という組織について、主な目的や活動内容を教えていただけますか?
川口さん:大阪府では令和2年度からスマートシティ戦略部を立ち上げ、DX推進による住民QOL向上を目指しています。その活動にあたり、住民にもっとも近い基礎自治体との連携が不可欠と考え、 情報システムや情報ネットワーク等に関する情報交換や共有を行う目的で「GovTech 大阪」という連携組織を発足させています。主な取り組みとしては、行政DXの分野で、システム共同調達や勉強会、ハンズオン企画、技術セミナーなどを実施しています。
―「GovTech 大阪」が目指す行政DXの推進や、住民QOLの向上について、具体的な内容をお聞かせください。
川口さん:「GovTech 大阪」では、自治体DXに関するアンケートを通じて、府内各市町村のニーズを把握し、最も求められるシステムの共同調達を実現しています。このアプローチにより、効率的なソリューションの実施と府全体のサービス向上を目指しています。例えば、過去のシステム共同調達では「自治体専用チャットツール」や「電子申請システム」、「文書管理・電子決裁システム」などを実施してきました。人材が不足する一方で、システム費用の負担が増えていく市町村の課題を、人材・財政の両極から解決し、府域全体で一定水準の住民サービスを提供することが重要であると考えています。
―今回の共同調達の背景には、どのような課題やニーズがございますか?
川口さん:府内市町村は財政状況が様々であり、特に規模の小さな団体では人材不足の課題もあり、標準的なデジタルサービスが提供できない例がございます。そのため、住民の属性に合わせた情報配信機能、「子育て」「ごみ収集」といったコンテンツの提供など、標準的な住民向けサービスを行えるよう共同調達を実施しました。
―大阪府が導入費用の一部を負担する背景や意図について、詳しく教えていただけますか?
川口さん:府内市町村へ一定水準の住民サービスを推進するにあたり、大阪府は市町村の財政負担軽減を支援しております。大阪府からは共同化補助金を出すことで市町村が共同調達に参加しやすくなり、さらに多くの市町村が参加してくれることによりスケールメリットも発揮できるため、住民サービスの横展開ができると考えています。
LINEを活用した
効率化とアクセシビリティ
―今回「スマート公共ラボ with LINE GovTechプログラム」を採用された理由を教えてください。
川口さん:住民が簡単に使えるスマートフォンを活用することが重要だと考えています。LINEは多くの人々が利用しており、サービス導入の際の抵抗感が少なく、住民にとって使いやすいという利点があります。
松尾さん:自治体向けの機能も充実しているため、優先的に選択しました。例えば、自治体専用アプリを用意した場合、住民が新たにインストールすることに対する心理的負担もあるため、すでに普及しているLINEを利用することで、その負担を軽減しようと考えています。LINE以外にも自治体向けアプリの開発が進んでいますが、LINEはインストール率が高く、拡張機能も自治体向けで充実しており、住民にとってのアクセスのしやすさを考慮して選択しました。
西川さん:メンテナンス費用や職員の負担なども考慮して、LINEを選択しました。使いやすさや価格面、機能面、そして今後のOSバージョンアップ等による更新作業が伴わない保守面を重視して選定しました。プレイネクストラボさんからご提案いただいた、運用サポートや友だち登録率の向上施策などの点も魅力的であると感じました。
職員異動時のサポートで
持続可能なサービスの実現
―「スマート公共ラボ」の導入によって、職員の業務に期待される効果について、詳しく教えていただけると嬉しいです。
川口さん:自治体にとって職員の異動は避けて通れません。一定水準の住民向けサービスを長く提供し続けるためには、新たに配属となった職員でも使えることが必要であり、職員へのサポートを大いに期待しています。また、友だち登録をしてくださる住民を増やすためのチラシやポスターなどを使った広告施策、将来的な機能拡張など、職員・住民両方のサービス向上が図れるものと思っています。
松尾さん:職員が使いやすい環境を提供することが重要です。さらに、職員の人事異動時におけるサポートも重要で、これは初年度に特に注目される点です。プレイネクストラボさんには、すでにさまざまなことを実施していただいておりますので、今後も期待しています。
共同調達の未来図を
全国にも広げていく
―共同調達を実施する際の課題や、それを克服される方法についてお聞かせください。
川口さん:共同調達ならではの課題として、単独調達と比べると希望にそえない事業者が選定されるケースがあります。市町村目線としてリスクを負って共同調達に参加し、府域全体のスケールメリットの発揮に協力してくれています。そのため 「GovTech 大阪」が事務局として、市町村と事業者の間に立ち、市町村の不利益とならないよう、事務手続きなど調整しております。また共同化補助金を出すことで、財政的な支援も行っております。
―共同調達では各自治体が自分たちのニーズに合った事業者を選ぶことができますが、話し合いをされているのですか?
川口さん:調達決定前には、さまざまな事業者のシステムを比較し、最終的に調達仕様書をまとめています。
松尾さん:デモンストレーションを拝見し、正しく理解した上で、各事業者の機能についての意見を集めています。ただ、実際に調達する際の不確定性はありますが、それを反映した形で、市町村さんとコミュニケーションを取りながら進めています。
―今回の共同調達によって近畿エリアや全国の地域へ与えると予想される、影響やメリットはどのようなものでしょうか?
川口さん:「GovTech 大阪」の取り組みが他都道府県にも発信され、知っていただくことができます。それにより府内市町村に対しても”後乗り”という形でこの調達に参加してもらい、参加市町村の間で好事例の共有をすることで、府全体でさらなるサービスが向上されることを期待しています。大阪府の取り組みを他の地域でも参考にしてもらえるよう、広報事例で情報発信を行っています。
松尾さん:大阪だけが良くなるのではなく、都道府県にこだわらずに、全国的に良い影響を与えることが目標です。市町村間での協力と共有を促進し、システムの導入だけでなく、導入後の運用や改善にも注力しています。電子申請などの成功事例の共有や、仕様書、新しい取り組みに対するフィードバックの提供も行っています。成功事例は横展開をして、全国的に広がればと思っています。
利便性向上を図る
今後のアプローチとは?
―本日は貴重なお話をお聞かせいただき、ありがとうございました。最後に、今後の共同調達の展開や計画についてお聞かせいただけますか?
川口さん:システム共同化は今後も案件の拡大を続ける予定です。人的リソース、財政負担、スキル不足など全庁的な課題は未だに残っております。BPR(ビジネスプロセス・リエンジニアリング)を実施しながら、課題解決が図れる最適なシステムを提供できるように推進したいと思います。市町村さんのアンケートを基にした共同調達を進め、人材シェアリングやアドバイザーの導入なども検討しています。
松尾さん:共同調達の成果や事例を他の自治体に提供し、互いに学び合う環境を作ることを目指しています。他の自治体からの問い合わせも増えていますが、今後も共同調達による利点や成功事例を共有し、さらなるサービスの改善や拡大を目指していきます。勉強会を実施するなど、さまざまなことを試してまいります。新しいサービスの導入に関しても、音声認識など、既存のシステムの更新や新機能の追加に注目しています。
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取材にご協力いただいた皆様今回の取材を通じて「GovTech 大阪」が実施している共同調達の取り組みの重要性や効果が明らかになりました。自治体間の地域格差を縮め、住民サービスの質を向上させる試みは、他の自治体にとっても参考になるモデルと言えるでしょう。各自治体のニーズに応じたサービスの実現を目指し、広範な市町村に及ぶ影響力を持つ「GovTech 大阪」の取り組みは、今後も注目に値します。日本全国におけるスマートシティ戦略の推進に、重要な役割を果たしていることをうかがい知ることができました。